
| [新しい朝] 山吹あらら 実家である片田舎の教会を旅立ってから、今日で5回目の朝。なんとか首都カプリに到着し、冒険者たちが集う宿に宿泊する事も出来た。 (神よ――――――) 食堂の隅に腰を下ろし、リュードは神に祈りを捧げる。 好青年と言っていい爽やかな容貌、まだ甘さが残る顔立ちからは穏やかな人柄がうかがえる。 一見、剣士に見えるリュードだが、教会で生まれ育った彼は司祭である母から一通り神の教えを受けていた。正式な資格はないが、治癒魔法など神の奇跡を操ることもできるのだ。 (最初の目的地、カプリに着けた事を感謝します…そして…仲間ができたことも…) 祈りの途中、気配を感じて、リュードはハッと顔を上げた。 遠慮がちに立っていたのは小柄な少女だった。 「ごめんなさい…お祈りの邪魔、しちゃった…?」 少女は申し訳なさそうな表情を浮かべ、少し後ずさる。 春の陽だまりを思わせる、ふうわりと細く柔らかい金の髪。深い翡翠色の瞳、抜けるような白い肌……彼女の周りだけ淡い光を放っているように見える。 リュードはその美少女を見つめ、しばし言葉を無くした。 「…あ…、い…いんだよ。お、おはよう、リリン」 リュードはハッとして視線を外した。顔がどんどん上気していくのが解る。 そろそろ見慣れたと思ってたのに――― リュードは自分の未熟さを恥じながら、椅子を引いてリリンに席を促した。他の客に見られるような気がして、出来るだけ自分の後ろに彼女を隠して―――。 「リリン」と呼ばれた少女。彼女が初めての仲間、ハーフエルフの魔術師だ。希少な魔術師を仲間に出来た事も収穫だが、リュードはそれ以上に、昨日よりも彼女自身に惹かれていくのを感じていた。 「お祈りって久しぶり。よく司祭さまに”朝はちゃんとお祈りをしなさい”って怒られたの…。でも、つい忘れちゃうのよね」 リュードの隣で手を組み、いたずらっぽくリリンが笑う。しかし、すぐハッとして 「ごめんなさい。リュードも神官さまなのに…」 と、バツが悪そうに肩をすくめた。 「いや、俺は正式な神官じゃないし…。それから、別にお祈りも強制しない。神は平等に分け隔てなく慈悲をくださるんだ。特別な儀式は必要ないんだよ。」 つとめて優しく、リュードは言った。どうやらリリンはあまり信仰に興味がなさそうだ。少しずつ神の教えを伝えていければ……。そう思ったのだが、明らかに彼女は不機嫌そうな顔をしていた。 「…わたしのところには、いつだって神様、いなかったわ…」 リリンの言葉に、リュードはドキッとした。 神様が いない―――? 「おはよーー!! なに朝から辛気臭いことやってんの。はやく朝ごはんにしようぜ〜♪」 のん気に雰囲気で現れた男―――もう一人の仲間「ディア」。エルフの精霊使いで、カプリに着くなり「仲間になりたい」と声をかけられたのだ。実力の程は解らないが、今のリュードに仲間を拒む理由はない。あっさりパーティー成立となった。 「朝ごはんはパンと卵とベーコンとチーズ?チーズって何?何かヘンな匂いしてるよ!」 初めて人間の世界に出てきたと言うディア。見る物全てが新しいのだろう、まるで子どものように目をキラキラさせている。 白い肌に切れ長の蒼い瞳。肩を少し過ぎたあたりまで伸ばした漆黒の髪がサラサラと音を立てる。美しい姿をしていながら、彼の行動はかなり間が抜けたものだった。朝食のひとつひとつを面白そうに眺めてはツツきまわし、最後にパクついている。 「ヘンなエルフ…」 リリンが眉を顰めながら呟いた。その言葉には明らかに敵意が感じられる。昨日仲間になったディアの事をあまり快く思っていないようだ。 「…早く食事を済ませて仕事を探しに行こう。最初だし…なんか簡単な仕事がいいな」 話題を変ようと、リュードは姿勢を正して言った。 「…………仕事…?」 リリンとディアが一斉にキョトンとした表情でリュードを見る。 「あっ、そーか。冒険者だもんな。何か依頼を貰って冒険するのかぁ」 ディアが思い出したかのように言った。 「……そうよね。仕事しないとゴハン食べられなくなるのね」 仕事をするなど考えてもいなかった様子のリリンは、しゅーんとして下を向いた。 おい、一体何を考えて冒険者になったんだよ―――――― 冒険者の自覚がないふたりに眩暈を感じつつ、リュードは言葉を飲み込んだ。 |